作家の素顔

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今村翔吾:『塞王の楯』の映像的な合戦は、ダンス指導のあと専業作家になった身体派の目

穴太衆の石垣と国友衆の鉄砲が大津城でぶつかる『塞王の楯』。戦場の俯瞰と兵士の息づかいが交互に切り替わる描写は、しばしば「映像的」と評されます。その作者・今村翔吾さんの前職は、ダンススクールのインストラクターでした。

家業がダンススクールで、中学からダンスを始め、社会人になってもインストラクターとして指導していました。本人は「ダンス自体は別にそんなに好きやなかったけれど、人にものを教えたり、子どもたちに何か指導するのは性に合ってました」と語り、コーチングや人と関わる感覚が作風の人間関係描写にもつながっている、と作家の読書道で振り返っています。

転機は30歳前後。教え子から「翔吾君も夢を諦めてるくせに」と言われたことなどをきっかけに本気で小説家を目指し、ダンスの仕事を辞めて執筆に転じます(マイナビニュースの直木賞受賞インタビューでも、ダンスインストラクターから作家への「転職」として語られています)。その後、発掘調査の仕事をしながら新人賞に応募し、『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー——身体を動かす現場から、机上の合戦へ、キャリアが切り替わりました。

『塞王の楯』刊行記念インタビュー(集英社「文芸ステーション」)では、合戦描写のカメラワークについて本人が明確に語っています。頭の中にはっきり映像があり、カメラをよく動かす。引きで全体を見せるより、苦しむ主人公の口元に寄って砂が舞うカットを想像してから、それに見合う文章を書く——といった手法です。戦場の最前線で石垣を修復する「懸」の緊迫感も、足軽視点のリアルを描きたいという意図から生まれたと述べています。

穴太衆の末裔への取材で、手の感覚や「石の声」など職人の身体知を蓄えたことも、同インタビューで詳しく語られます。ダンス指導で培った「人を動かす・空間を見る」感覚と、合戦の映像的な視点切替を、本人が一本の線で結んだ発言はインタビュー上では限定的です。ただ、指導者時代の人間関係への関心と、専業後の徹底した現場取材・カメラワーク意識が並走している——そう読んでおくと、『塞王の楯』の躍動の由来が立体的に見えてきます。

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