知念実希人:『仮面病棟』の密室は、夜の療養型病院で当直した医師の肌感覚から

ピエロの仮面をかぶった男に占拠された療養型病院。一夜限りの当直医が、逃げ場のない病棟で駆け回る『仮面病棟』。医療サスペンスとしての説得力は、現役医師である知念実希人さん自身の当直経験と、病院構造への執念から立ち上がっています。

映画化インタビューで知念さんは、撮影に使われた実際の病院について「僕がよく当直していた病院に雰囲気がよく似ていて、臨場感がありました」と語っています。療養型・とくに小規模な病院は似た造りが多い、とも。続けて、夜の病院の実態をこう明かします。「患者さんが寝ているので、廊下は非常灯が点いているくらいで、ほとんど真っ暗です」。昼間の喧騒とは別物の、静かな閉鎖空間——その空気感が、作中の焦燥の土台になっています。

舞台に療養型病院を選んだ点も、臨床知と結びつきます。急患が次々来る急性期病院とは違い、夜間の人の出入りやスタッフ配置のイメージが異なる。新潮文庫nexのインタビューでは「いちばん苦労したのは、病院の構造ですね」と述べ、文庫に付いた各階のフロア図と事件が矛盾しないよう何度も練り直した、と明かしています。逃げ場のない密室としての説得力は、間取りを現場目線で組み立てた結果です。

当直医という立場の描写にも、医師ならではの注釈があります。当直はその夜の対応を担うが、治療の全権は主治医にあり、急変時は主治医を呼ぶまでのつなぎ——だから入院患者は「自分の患者」ではない、と知念さん。一方、作中で速水が執刀した瞳だけは守るべき存在になる、というコントラストも、外科医の患者意識を踏まえて書かれたと本人が説明しています。

執筆事情も緊迫感を後押ししました。締め切りまで約40日しかなく、大きな舞台は書けないと判断し、「SAW」「CUBE」のような一晩のソリッド・シチュエーションにした、と映画化時に語っています。短期間で一気に書く制約が、テンポの速い脱出劇を生んだ、というのが本人の振り返りです。フィクションの仕掛けに、当直の暗さと病院の動線が噛み合っている——そう知ってから読むと、廊下の非常灯の描写が一段リアルに響きます。

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出典

公式・出版社系の公開情報を参考にしています。詳細は各リンク先でご確認ください。

  • ほんのひきだし — 坂口健太郎×知念実希人インタビュー(仮面病棟)

    https://hon-hikidashi.jp/book-person/25239/

    当直していた病院に似た雰囲気、夜の廊下が非常灯程度で暗いこと、当直医と主治医の役割、40日の執筆期限とソリッド・シチュエーション。

  • 好書好日(朝日新聞) — 映画『仮面病棟』坂口健太郎×知念実希人インタビュー

    https://book.asahi.com/article/12994968

    当直医の役割と、執刀患者を守る意識についての本人談。

  • BOOKSTAND映画部 — 知念実希人×坂口健太郎×永野芽郁インタビュー

    https://bookstand.webdoku.jp/cinema/news/2020/01/21095106.html

    締め切り40日、一晩の病院ものにした着想。

  • 新潮文庫nex — 知念実希人 スペシャル・インタビュー

    http://www.shinchosha.co.jp/nex/blog/2016/01/20160126-1.html

    「いちばん苦労したのは、病院の構造ですね」とフロア図の作り直しを語る本人談。夜の療養型病院の雰囲気にも言及。

  • 実業之日本社(書誌) — 『仮面病棟』作品ページ

    https://www.j-n.co.jp/books/978-4-408-55199-9/

    2014年12月刊、344ページ。療養型病院に籠城した強盗犯と当直医を描く医療サスペンス。

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